予防接種

千葉県医師会 県民向け広報誌「ミレニアム」
第65号(2018年6月10日発行)

【特集】
知っておくべき薬剤耐性菌の脅威
抗菌薬を正しく使おう! [P1~P4]

(監修)黒崎 知道 医師

知っておくべき薬剤耐性菌の脅威 抗菌薬を正しく使おう!

 今、抗菌薬が効かない「薬剤耐性菌」による感染症が世界中で増加しています。このままでは、その死亡者数は2050 年にはがん死者数を上回ると予測されるほどで、世界規模で対策が急がれています。
 誰にとっても他人事ではないこの事態を食い止めるためには、私たち一人ひとりが抗菌薬について正しく知ることが必要です。

「抗菌薬」と「感染症」について

「ミレニアム」第65号 P1



よく効くはずの抗菌薬が効かなくなる?

 「かぜに抗菌薬は効かない。むしろ、必要もないのに抗菌薬を飲んだら危ない」ということをご存じでしょうか。
 抗菌薬(抗生物質、抗生剤)とは、細菌を殺したり増殖を抑えたりする薬です。この抗菌薬の出現により、昔は治せなかった結核や肺炎といった感染症を治せるようになりました。大けがや手術後で体力が弱っている時に、感染症から体を守ってくれるのも抗菌薬です。とはいえ、抗菌薬は全ての感染症に効くわけではありません。
 感染症の原因は、「細菌・ウイルス・真菌」などがあり、抗菌薬は「細菌」に効くのですが、ウイルスが原因のかぜやインフルエン ザには効きません。
 にもかかわらず、抗菌薬を不適切に服用していると、抗菌薬が効きにくい、あるいは全く効かない菌が出現して、体にとどまってしまうことがあります。これが「薬剤耐性菌」です。そして最近は、複数の抗菌薬に対して効かない多剤耐性菌が増加傾向にあります。
 薬剤耐性菌を持つと、いざ本当に抗菌薬が必要となった時に薬が効かず、治るはずの病気が治りにくくなることや、命を救えないことすらあります。
 さらに厄介なことに、薬剤耐性菌は人から人へと感染します。気づかないうちに、家族や病院内の他の患者さんに感染させてしまうこともあるのが怖いところです。

不要・不適切な抗菌薬服用で出現する「薬剤耐性菌」

「ミレニアム」第65号 P2

薬剤耐性の危険性

「ミレニアム」第65号 P3



「薬剤耐性菌」出現のメカニズム

 もともと私達の体内には、健康を維持するために害のない細菌がたくさん住み着いていて、バランスを保ち合うことで病気をひき起こすことなく共存しています。そこへ外部から健康を害する細菌が侵入してくると、体は自分の免疫力で闘います。しかし、それだけではその細菌をやっつけられないという場合に、治療の武器として「抗菌薬」が使われます。
 抗菌薬は感染症の原因となった細菌だけでなく、体に有用な腸内細菌などもまとめて殺してしまいます。しかし、抗菌薬の攻撃に耐えて生き残った強い細菌は、他の菌が消えた環境を独り占めして勢力を拡大し増殖していきます。
 このように薬剤に対して、抵抗力を持つ菌へと変化してしまうのが、耐性菌が出現する主な仕組みです。
 抗菌薬の攻撃から生き残った細菌が、いつも薬剤耐性菌に変化するわけではありませんが、抗菌薬を使えば使うほど、薬剤耐性菌が出現する機会は増えてしまいます。従って、抗菌薬は、本当に必要な時だけに絞り込んで使うことが重要なのです。
 ただ、抗菌薬の使い過ぎが危ないと知ると、今度は、処方された抗菌薬を自己判断で減らしたり、途中でやめてしまったりする人がいますが、実はこれも薬剤耐性菌出現の大きな原因です。
 抗菌薬を適切に使えば退治できたはずの病原菌が、中途半端な量の抗菌薬にさらされながら生き延びること、これこそが抗菌薬への耐性をもつ薬剤耐性菌が最も出現しやすいケースなのです。
 処方された薬は、用法・用量を守りしっかり飲み切らなければ危ないことを忘れないでください。

薬剤耐性の拡大を防ぐ方法

「ミレニアム」第65号 P4



まずは感染症予防に努めよう!

薬剤耐性菌は、抗菌薬が乱用されていた時代に、世の中に急速に拡散していきました。
 新しく出現した薬剤耐性菌に対抗するための抗菌薬が開発されると、また、その抗菌薬に耐える新しい薬剤耐性菌が出現し、まさに、いたちごっことなっています。
 薬剤耐性菌が広まってしまった原因の一つは抗菌薬の不適切な使用ですが、もう一つには、感染症予防に対する意識の低さもあります。
 感染症にかからなければ抗菌薬に頼る必要もないのですから、薬剤耐性菌の蔓延を食い止めるため、私たち一人ひとりができる感染症予防を心がけ、病気にかからないよう努めましょう。




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